伴想社

三鷹の出版社・編集プロダクション

『中国のビジネスリーダーの価値観を探る』未収録コラム

岡本聡子 著

『中国のビジネスリーダーの価値観を探る』では未収録となった、底本『上海のMBAで出会った 中国の若きエリートたちの素顔』のコラムを一部編集して掲載します。コラム内の情報は基本的に底本発行当時(2005年)のものです。

Column 1
CEIBSのMBAプログラム

本書は、著者がかつてCEIBS(China Europe International Business School=中欧国際工商学院。上海にある中国のトップビジネススクール)で若き日の超エリート中国人と本音で語り合った1年半の記録です。

●学校の概要
CEIBSは、「シーイーアイビーエス」と読む。正式名称はChina Europe International Business School。中国語では中欧国際工商学院。上海交通大学とEU(欧州連合)企業が出資した国際的なビジネススクール(MBA)で、すべての講義は基本的に英語で行われる。私の学年(MBA2003と呼ぶ。入学年度が呼称となる)の学生は、外資系企業や大手国有企業出身者、元企業オーナーのみで、入学時の平均年齢は約30歳。学生の90%が大陸中国人。学費、入試競争率(約20倍)、ランキングがいずれもアジアナンバーワンのエリート校。留学生の全課程の授業料は2万5000米ドル(2005年4月現在)で、中国人の場合は約2万米ドル。ひとつ上の学年には、胡錦涛国家主席の娘が在籍していた。私の学年には、私のほかにもうひとり日本人がいて、ともに2003年6月から2004年12月まで在籍。同校初の日本人留学生となった。

イギリスの経済新聞『Financial Times』が2005年に発表したMBA世界ランキングで、CEIBSは22位。前年の53位から大躍進した。留学生の多様性、卒業後3カ月以内の就職率99%、ロンドンビジネススクールなど欧米のトップ44校との交換留学提携、卒業生の給与が毎年二けたの伸びを示したことなどが躍進の理由と考えられる。設立10年という歴史の短さを考えれば、この躍進はなかなかのもの。学校の公式サイト(http://www.ceibs.edu)に最新情報が掲載されている(英語・中国語)。

●プログラムの概要
6週間の授業を1学期とし、学期ごとに1週間の休みを挟み、全部で7学期(3カ月間のインターンシップまたは交換留学、2カ月間のグループ・コンサルティング・プロジェクトを除く)を17カ月で修了するフルタイムのプログラム。1学期に3~5科目あるため、かなりハード。プログラム開始後は、しばらく同級生間の競争(成績は相対評価)によるプレッシャーで体調を崩し、文字通り青い顔をした学生も多かった。

欧米のビジネススクールでは、週4日授業、あるいは午前中のみ授業というところが多い中、CEIBSは月曜から土曜まで毎日授業というスケジュールになることもあり、学生側から不満が出た。このような予定組みになってしまう最大の原因は、海外の教授の招聘日程だった。海外の教授陣は、招聘される6週間だけ、自身の中国研究を兼ねて教えに来る場合もあり、SARS(重症急性呼吸器症候群)など、渡航を控えてしまうようなマイナス要因が出てくると、すぐに予定がずれた。また、招聘教授の授業は、質にばらつきがある。私はこれらの問題について何度かMBAの責任者に直談判したことがある。

授業はハーバードビジネススクールのケーススタディ(事例研究)を主体にしたディスカッション形式。教授は欧米人が多いが、華僑・華人や海外生活の長い大陸中国人の教授もいる。後半の学期では、中国やアジアを主とした戦略論や地域論も選択科目として受けられる。ほかの授業でも「中国の実情は?」という問いかけにより、思わぬ事実が分かることもあり、面白い。

授業では積極的に価値のある内容を発言することで参加点数がつくが、特定の学生を除き、中国人学生の多くはあまり積極的ではなく、指されたら話す程度。この理由をある欧米客員教授は「中国人は、集団の中で突出するのを美徳としない国民性だからだ」と言ったが、本当のところは、中国人学生にとって外国語である英語を使う面倒くささだと思う。彼らはTOEFL(英語を母語としない人の英語力を測る試験)の模範解答のような分かりやすく正しい英語を話すが、やはり外国語なのだ。

後半の学期になると、課題の資料をあまり熱心に読まない学生も出てきた。外国語ということもあり、欧米の学校ほどリーディングの量は多くないが、読まなければ授業についていけない。もったいないことをするなぁ、と思った。

必修科目は経済学、会計、マーケティング、戦略などで、欧米のビジネススクールと変わらない。しかし、学生からのフィードバックによって、毎年変わる可能性がある。私たちの学年では必修だったITと経営、商法、マクロ経済学はひとつ下の学年から選択科目になった。

中国らしい科目は、最後の学期にある中国経済。中国一といわれるエコノミストの呉敬璉教授の授業が受けられる。この授業は出欠を取る必要もないほど学生たちに人気で、サインや写真撮影を求める学生も多い。ただ、彼は英語もできるのだが、訛りの強い中国語で授業を行うため、中国語ができない留学生は別室で別の教授による英語の講義を受ける。評価はレポートで決まる。中国経済は、英語であっても非常に有意義な授業だった。留学生7人のためにMBAの責任者でもある教授が講義してくれる上に、質疑応答も活発なので、私のお気に入りの科目だった。

中国やアジア戦略を学ぶ授業では、ケーススタディで取り上げられた経営者を招いて質疑応答も行われた。中国語しか話せないスピーカーには同時通訳が付く。

通常のMBAプログラムのほかに、エグゼクティブMBAプログラム、駐在員向けプログラム、1科目だけの短期プログラム、企業の委託による研修プログラムなどがあり、中国語で講義が行われるものもある。

Column 2
CEIBSのエグゼクティブMBAの実力

CEIBSには、私が在籍していたMBAプログラムのほかに、企業のトップや幹部など、経営者層を対象とするエグゼクティブMBA(以下、EMBA)プログラムがある。これは、忙しいエグゼクティブが現職を離れることなく受講できるように、1カ月に2度の週末を使って授業を行い、2年で卒業するプログラム。『Financial Times』紙のEMBAランキングでは世界20位と、上位に入っている。CEIBSのEMBAは、中国の数多くの企業経営陣、高級管理職のあこがれの的となっている。このEMBAの、フルタイムの2年間プログラム(中国語)に、日本人として初めて入学した立花 聡氏に話を聞いた。

岡本:同級生はどのような人たちですか。

立花氏:多国籍企業や大手国有企業の経営陣、高級管理職、弁護士のほか、上海市の副市長や税務局長、建設局長といった高級官僚もいます。いずれも普段会ってくれそうもない人ばかりです。このような人たちと同級生として付き合えて、人脈を築くことができます。これはすごいことだと思います。

岡本:上海出身者が多いのでしょうか。

立花氏:上海だけでなく、中国全土から集まっています。校友会のデータベースが充実していて、入学年次を超えた交際もあります。中国各地の政財界を牛耳るエリート中のエリートが名を連ねています。

岡本:人脈のパワーを物語る具体的な事例はありますか。

立花氏:2004年のEMBAプログラムでは、ビジネスモデルケースの実習として、学生が上海のある繁華街の不動産開発を発案しました。このプロジェクトには、不動産会社社長、市建設局と財務局の役人、建設会社の設計本部長、証券会社や投資銀行の本部長などが参加し、あっという間に土地使用権や建設許可を取得し、銀行融資も取り付けたということです。通常の建設案件では考えられないスピードで進んだのも、人脈のパワーによるものでしょう。

岡本:過度の人脈行使による問題も指摘されますが……。

立花氏:権力の行使はあくまでも合法的でなければなりませんが、一線を越えた卒業生もいました。証券市場でのインサイダー取引、粉飾決算、不正蓄財などで、逮捕され法廷に立たされた卒業生はすでに5人に上ります。キャンパスで得た高度なビジネススキルと自身の持つパワーが合わさることで、一線を越えてしまうリスクが増幅するのでしょう。入学式では、学長がビジネス倫理の向上を必死に叫んでいました。

■立花 聡(たちばな さとし)
上海エリスコンサルティング有限公司の代表兼キーコンサルタント。華東政法大学法学博士、復旦大学法学修士。2005年、CEIBSに入学。※本プロフィールは情報をアップデートしました。底本発行時と異なります。

EMBAの人脈は私たちMBA学生にとってもあこがれで、どうにかして彼らに接触したいと考える学生もいる。そこで、ひとつ下の学年では、MBA学生ひとりにEMBA学生ひとりがチューターとして付いて、アドバイスするという仕組みが学校主導で試験的に導入されている。熱心なチューターに当たれば、一緒に食事をしたり、就職の相談ができたり、人を紹介してもらえたりと、機会が広がるに違いない。チューターの人選は、MBA学生のバックグラウンドやEMBA側の希望を考慮し、学校が行う。例えば、日本人MBA学生には、日本とのビジネスに興味のあるEMBA学生を付けるなど。

私も何度かEMBA学生と話す機会があった。中国語、英語以外の言葉を話せたり、留学経験があったりして、かなり頼もしい人たちだった。彼らのほとんどは経営者層の人なので、休み時間に携帯電話で職場に指示を出すため、人気のない場所を探してうろうろする。かくして、授業開始時にクラスのサポートスタッフが鐘を鳴らして皆を呼んでまわるという光景が見られる。授業のある日には、学校の周囲を自家用車や運転手付きの社用車が取り囲む。

学校公認のゴルフ部があるように、EMBAは趣味も高級である。学生同士の親交を深めることを目的とした、さまざまな講演会やスポーツ大会も催されている。大阪証券取引所が主催した、上場のための説明会には私も出席したが、日本語を話すEMBA学生も来ていた。また、日本のベンチャーキャピタルによる講演にも多数の学生が押しかけ、真剣にビジネスを拡大させようという意気込みがうかがえた。日中の政治問題などまるでないような錯覚に陥るほど、ビジネス面にフォーカスして、将来を見据えたものだった。年に数回、卒業生(MBAも含む)を対象に、モンゴルやシンガポールなどへのツアーがある。視察や、親交を深めることを目的としたもので、以前は欧州へも行ったようだ。

学生の年齢は30歳代後半が多く、欧米EMBAの学生の年齢が40~50歳程度なのに比べてずいぶん低い。これは、文化大革命の影響で経営者層に上の世代がおらず、若い彼らが経営を担っているからで、中国の現状を端的に表している。

Column 3
最近の日中間の出来事

(◎は、著者の行動を表す)

2002年
10月 日中首脳会談で江沢民国家主席が小泉首相の靖国神社参拝の中止を要求/◎中国留学を決意

2003年
1月 小泉首相が靖国神社を参拝
6月 SARS発生でビジネス交流が冷え込む/◎CEIBS授業開始
9月 日本人観光客による集団買春事件(広東省珠海市)
10月 日本人留学生によるわいせつ寸劇事件(陜西省西安市)

2004年
1月 小泉首相が靖国神社を参拝
3月 中国民間人が尖閣諸島に上陸
8月 中国でサッカー・アジア杯開催。各地で中国人ファンによる反日運動
11月 中国軍潜水艦が日本の領海を侵犯/日中首脳会談で胡錦涛国家主席が小泉首相の靖国神社参拝を批判
12月 台湾の李登輝前総統がプライベートで来日/◎CEIBS卒業。日本に帰国

2005年
日中戦争終結60周年の記念の年
4月2日 日本の国連安全保障理事会常任理事国入りに対する反対集会(四川省成都市)
4月3日 日本の国連安全保障理事会常任理事国入りに対する反対デモ(広東省深圳市)
4月5日 日本の文部科学省が発表した中学の教科書検定に対して、中国側が抗議
4月10日 反日デモ発生(広東省広州市、深圳市)
4月16・17日 中国各地で反日デモ発生
4月18日 ◎帰国後初の上海渡航

Column 4
エリートたちの一日

①授業がある日
授業は1、2時限目、昼休み、3、4、5時限目という流れ。3時限目はないことも多い。6~8時限目まで続く日もある。

【中国人学生の場合】
8:10  起床
寮のあちこちから目覚まし時計の音が鳴り響く。朝シャワーを浴びる人が多いようだ。教室では髪がべちょべちょのままの人も多い(かくいう私も)。

8:30  朝食
食堂で中国式の朝食。おかゆ、面条(めん類)、豆乳、点心(菓子類、軽食)など。3食の中では、朝食がいちばんましである。

8:50  1、2時限目
1時限目開始直前に、教室で朝食をとる人も。廊下にある給湯器でお茶ポットにお湯を入れるため、少し余裕をもって教室に行く。

11:40  昼休み
行列を避けるため食堂にダッシュ。3時限目がない場合、寮生は食後に昼寝。学外から通っている人は図書館や教室で自習。

12:20  3~5時限目
眠くなる時間帯。つい寝坊して遅れてくる寮生もいる。

16:50  授業終了
食堂で夕食。食後はグループでディスカッションなどを22時ごろまで。


個人で予習・復習。余裕のあるときはスポーツやジョギング。2時ごろ就寝。

【私の場合】

8:25起床。8:30の朝食のため、食堂へダッシュ。

昼休み
3時限目がない場合、たまに留学生と外出。それ以外は寮住まいの中国人と同様、昼寝重視。

夕食
食堂の食事があまりにまずいので、ついインスタントなどに手が出る。共同キッチンで料理すると、「日本料理か!」と人が集まり面倒。そもそも料理する時間があまりないので、寮生にとって食事は最大の不満要因だった。


勉強以外、ほとんどパソコンの前。就寝前、日本のラジオ放送のネット版を聴いてリフレッシュするのがとても楽しみだった(大阪ABCラジオ「おはパソ」の道上洋三アナ、ありがとう!)。最初は、22時から同級生とジョギングをしたり、バドミントンや卓球をしたりしていたが、彼らのペースについていけず、すぐに脱落。でも、スポーツを通して仲良くなれるというのは本当だった。2時ごろ就寝。

②休日の過ごし方
土・日のうち片方の日をケースディスカッションや予習に充てて、もう片方の日を外出に充てる学生が多かった。

【中国人学生の場合】

9:30起床。食堂の朝食時間が終わるぎりぎりまで寝ている。その後、布団干し。図書館や教室で自習。洗濯は、洗濯係のおばさんが10元(130円)でたたむところまでやってくれるので楽ちん。


スーパーで日用品の買い出し、外出、昼寝など。


予習、復習など。2時ごろ就寝。

【私の場合】
夜は同級生と食事やジャズバーに行き、タクシーで帰る。週末、外の友人と会うことは刺激、情報交換、そしてやる気につながるので必須。でも、交際費と往復のタクシー代が痛かった! 昼間は、足つぼと全身マッサージを2時間。月1回の漢方の診察。予習・復習。2時ごろ就寝。

Column 5
中国最大の日用品卸売市場――義烏(イーウー)旅行

午前8時にバスに乗って上海を出発。事故渋滞に巻き込まれて、着いたのは午後2時半ごろ。6時間半もかかってしまったが、これでも高速道路ができたおかげで、以前よりはましになったのだそうだ。ホテルに荷物を置き、午後5時の閉店まで市場を見て回る。街全体が大きな市場になっていて、扱う製品により数カ所のブロックに分かれているため、タクシーで移動しなければならなかった。

店では電卓片手に各国のバイヤーが交渉している。日本はもちろん、世界中のバイヤーが買い付けに来るのだ。この市場でそろわないものはないといわれている。基本は卸売りだが、卸値よりは割高になるものの、物によっては単品買いも可能。狭い店舗にはサンプルがびっしり。よく見るとどの店もパソコンを設置している。在庫の確認をオンラインで行っているようだが、ほとんど暇つぶしのゲームに使われている。売り子、というか店にたむろしている関係者は各店舗平均3、4人と、5坪程度の店舗にしては多過ぎるのだが、それでも利益の出る構造らしい。大きい取引がひとつあれば、それだけで家族がしばらく食べていけるのだ。

「見学だけ。買わない、買わない~!」と決めていた私も、靴やら何やらでついつい大きな紙袋ふたつ分の買い物をしてしまった。スーツケースを買うかどうか閉店ぎりぎりまで悩んだが、結局やめた(後日、カルフールでサムソナイトのスーツケースを買った)。帰ってから同級生に話すと、「革靴買っちゃったの?(義烏の革製品の評判は悪いらしい)」「仕事で行ったことあるけど、何しに行ったの?」と、不思議がられた。

でも、中国の経済や、中国が今強みを持っている「製品」の取引を体感できる場所として、あそこはリアルで面白いと思う。

著者紹介

岡本聡子(おかもと さとこ)

1976年生まれ。大阪府出身。文筆業。早稲田大学法学部卒。外資戦略系コンサルティング会社に4年間勤務した後、上海のCEIBS(中欧国際工商学院)に留学し、MBAを取得。


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